●3号室 おとなはわかってくれない
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
真夜中にふと目がさめたぼくは、のどがかわくのをおぼえて、ベッドを抜け出して
台所までいった。ミルクを飲もうと、冷蔵庫を開けたとき、おやっと思った。冷蔵庫の 
奥の、うずら卵のパック。そのなかの一つの卵が、ふと動いたような気がしたのだ。
ぼくは首をかしげて、パックを取り出した。テーブルの上に置いてしばらく見ていると
 なんてことだ!ひとつの卵がぱかりと割れて、なかから小さな小さな恐竜の赤ちゃんが 
生まれ出てきたのだ。それもあのティラノザウルスの形そのままの恐竜。うずら卵の
なかに、なぜだか間違えて、ティラノザウルスの卵がまぎれこんでいたのだ。
かわいい!ぼくはのどのかわきもすっかり忘れて、恐竜をたいせつに両手のひらに
つつむと、部屋にもどった。次の日の朝、ダイニングキッチンのテーブルの上に恐竜を 
乗せると、ぼくは大得意でママにいった。
「ねえ、見て見て!ティラノザウルスの赤ちゃんだよ!昨日、冷蔵庫のなかで
生まれたんだ。ぼくが最初に見つけたんだからぼくのものだよ!」
流しでせっせと洗いものをしていたママは、後ろをふりかえってテーブルの上にちらと
目を走らせると、
「あら、かわいいキーホルダーね。百円ショップで買ったの?」
ぼくは口をとがらせた。
「キーホルダーじゃないよ。ほんものなんだよ。もっとちゃんと見てよ」
「あらまあ」
ママはそれだけいうと、忙しそうに庭へ出て、せんたくものを干しはじめた。
ぼくのいうことを、ぜんぜん信用 していないんだ。ぼくは、朝食のパンの残りと
恐竜をいっしょにかばんに入れると、学校へ出かけた。かばんの中で恐竜は、
パンを食べてずんずん大きくなった。なんたって恐竜だから、成長が早いんだ。
キーホルダーくらいの
大きさだったのが、学校へつくころにはプロモデルくらいになって、かばんから
首を出してきょときょと物珍しそうにまわりを見ていた。
教室の机の上に、どっこいしょと恐竜をおくと、友だちがわあっと集まってきた。
「すごーい!これってほんものー?」
口々にそう聞く
「も・ち・ろ・ん、さ」
ぼくは鼻たかだかだ。そのとき始業のチャイムが鳴って、先生が入ってきた。
ぼくの机に目をとめると、
「学校にプラモデルなんかもってきちゃ いかん」としかった。
「先生。プラモじゃなくて、ほんものなんです」
ぼくはおそるおそるそういった。
「ふん」
先生は、鼻先を鳴らすと、くるりと背を向けて、黒板に板書をはじめた。先生も、
ぼくのいうこと信じないんだ。給食の時間になると、 クラスのみんなからわけて
もらったおかずを食べて、恐竜はますます成長した。下校時間のころには、
ぼくと同じくらいの大きさになった。ぼくと恐竜は、なかよく肩を組んで帰った。
マクドナルドのお店のある角を曲がったところで、ぼくたちはおまわりさんに
出くわした。おまわりさんは楽しそうに声をかけた。
「やあ、よくできた恐竜の着ぐるみだね。なかに入っているのは、小学生の子かい?」
「チガイマス ボクハホンモノノ恐竜デス!」育ち盛りの恐竜は、いつのまにか人間の
ことばまでおぼえて、怒って自分で抗議した。
「おやおや、そうかい。それは失敬した。ほんものねえ。ほんものかい。
あっはっはー。わっはっはー」
おまわりさんは腹をかかえて笑った。ぼくと恐竜は、顔を見合わせて肩をすくめた。
やれやれ。おとなには なりたくないものだ。
 
 
 
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